不思議な感じがする。


小説を読み終わっても、身体の中に、残る。
熱さが、残る。
そしてまぶしい。

これは一体何なんだろう?
わたしが体験したものは何だったのだろう?

読んでいる間、
わたしは今までの人生の中でまったく興味がなかったスポーツに、
そしてどうでもいいような「飛び込み競技」に

燃えていた。

飛び込みのシーンが、
彼女の描写を通して、本当に今目の前で見ているように鮮やかにくっきりと描かれる。
文字を通して想像する世界。

コンクリートのドラゴン。飛び込み台。それに一歩一歩登ってゆく姿。

今まで一度も本物はみたことなかもしれないのに、
その飛び込み台は想像上なのに、なぜか鮮やかにくっきりと、
色までも、そしてその階段についているだろう水しぶきや傷までもをはっきりと想像できるのだ。


ああ、森絵都マジック。

まさに、絵の都の森のような絵具で描かれた詳細な世界が頭の中に残る。


そして、登場人物たち。

トモに飛沫に陽一。

こいつらは本当に空想上の、架空の人物なのか?こいつらは存在しないのか?

わたしの頭の中で彼らは映画に出てくる俳優たちよりもずっと表情豊かに笑い、泣き、怒り、挫折し、
・・・そして飛んでいた。

こいつらは、本当に幻なのか?

それとも、実際に存在しているのか?


わたしは、彼女の作品を読むたびに、
「現実」と「想像」の境界線がどこにあるのか分からなくなってくる。
そしてどちらが大切なのか、どちらが本物なのかも。


彼女の作品に出てくる人たちは、普通じゃ別にテレビにも出てこないだろうし、
新聞には載ることもあるかもしれないけど別に気にも泊まれないような人たちだ。




弱小出版社が発行する「ラクラク☆ライフ」通販雑誌の編集をしている既婚男。
有名パティシェ「ラ・リュミエール」の伊形ヒロミのアシスタント。
バイトが週6、7のフリーターだが大学の文学部に通い、仕事と勉強の両立の狭間で苦しむ男。
仏像修復師(そんなんいたのかよ)の男。



「風に舞い上がるビニールシート」の里佳も
「DIVE」のトモも飛沫も陽一も夏陽子も
毎日顔合わせてるクラスメイトよりもずっと鮮明に顔が思い出せて
そして存在している気がするし、わたしはずっとクラスメイトよりも
陽一の孤独な葛藤を、トモの未来への無限の可能性を、夏陽子の仕事への情熱を知っている気がする。




そして、もう1つ。
森絵都は常に意味不明なタイトルが実は意味深というこの罠。

「風に舞い上がる~」も、一体何ですかソレ的なタイトルですが、命が飛ばされて行くほど軽い、
ということを表現しているタイトルで
もうこのタイトル以外考えられない訳ですが、


DIVEも、意味不明なタイトルがつけられてます。

「スワンダイブ」
「SSスペシャル99」

一見、なんじゃそれなタイトルな訳だけど、このタイトルが超意味ありまくり!!

重厚な飛び込みを見せる誰もが認める実力派の飛沫が腰を痛めていた自分に気づき
これ”以上”の難しい技を磨くのが無理と気づき、行き詰ったとき
「スワンダイブ」という、ただの飛び込みに磨きをかけた、「美しく白鳥のような飛び込み」こそが自分の飛び込みと気づく章!

「SSスペシャル99」は、陽一が自分の限界に挑戦するため
今までのトラウマだった苦手種目の名前を自分で変えて、「SSスペシャル」 を
克服して技を自分のものにして戦うぞ!という一心発起な章。




こんな、はたらから観たら意味不明?なんじゃそりゃ?
的なタイトルが、存在が、仕事が、スポーツが、人が、

まるで自分のもののように!そして友達のように!それ以上の親友になり!
意味をもって近づいてくる。





森絵都・・・・



素晴らしい・・・